<はじめに> 速聴®は、なぜ「頭の回転を速くさせる」のか
「ウェルニッケ中枢」を刺激しよう!
では、「ウェルニッケ中枢」を刺激する、とはどういうことだろう。
その方法は、ただ単に高速音声を聴くだけでよいのだ。なぜなら、すべての音声や目から入った言葉は、必ずこのツボ、すなわち「ウェルニッケ中枢」を通過するからである。頭蓋骨に穴を開けるまでもなく、もともと開いていて、その穴が直接、脳に通じているところ、それは目と耳である。

普段聞き慣れた言葉は、速いものでも野球や競馬などの解説の際のアナウンサーの言葉程度だ。これは普通の二倍から二・二倍の速さである。
魚とか食用肉の競り(オークション)では、約二・七倍の速さで言葉が飛び交うが、これは普通の人には何を言っているのか、わからない。ただ、競り合う人たちにとっては、いくつかの言葉のパターンがあるだけだから、慣れれば、聴き取れる。

しかし、普通に話すスピードを三倍、四倍も速くしたら、どうなるだろう。人間の口では、この速さは無理だ。しかし、テープレコーダなら可能かもしれない。
ところが、ご存じのように、そんなに早く回転させようとしたら、キュルキュルという音が聴こえるだけである。このキュルキュルさえなければ、脳力開発にとって、新しい分野が開けるのだ。
とはいえ、一気に四倍速に挑戦してもおそらく聴き取れないだろう。「ウェルニッケ中枢」の脳神経細胞同士の結びつき(ネットワーク)が粗くて、活性化されていないためだ。

そこでトレーニングが必要となる。もっともトレーニングといっても、ただ段階を追って速く聴くだけのことだから、トレーニングというイメージはかなり薄い。
なお、勉学(勉強、試験勉強、資格取得のための勉強など)のためにすでに二倍速程度で二~三度聴いている音声は、いきなり四倍速にしても聴き取れる。したがって、このような場合、時間短縮効果と全脳活性化という二つの効果が働き、大きな力を発揮する。これは朗報といってよい。

また小・中・高校生や資格試験に挑戦している人は、このトレーニングによって高い点数をとることができる。私たちの行っている「速聴」には特に子供用のものはないが、「速聴」用のソフトウェアの内容はわかりやすくできているので、小学校四~五年生以上なら十分有効である。
なお、本書では同じような説明が、あえて繰り返し述べられている部分がある。それは「追唱」というアイディアを加工して取り入れたためだ。このことにより、一度読むだけで大方を理解して、時間の無駄をなくすことができる。

そこで「くどい」ことは十分承知で、同一の原型をさまざまな角度から述べてある。同じ事実について、角度を変えながら何度も解説すると、事実の本質が見えてくる。あることを学ぶ際に、最も効率のよい理解法は「繰り返し」にある。
本書は一九九三年一〇月七日の初版第一刷から、この定説を応用した。そして増刷するごとに内容に手を入れた。したがって第一刷や第二〇刷など、また第百刷と、本書とは表現や内容が違う部分が多い。

こうして読者の反響を調べたところ、「一つのことを一読して理解できた」というお便りを多くの方々から頂いた。むろん「くど過ぎる」という内容のものも二割ほどあったが、私のこの試みは一一〇パーセント成功したと思う。必ず新たな発見があるはずなので、くどいからといって途中下車しないことを望む。

話は戻るが、こうして三倍速弱まで理解できるようになったら、その分、あなたの頭の回転は速くなったことを意味する。つまり脳神経細胞同士の結びつき(ネットワーク)の密度が高くなり、「追唱」の脳力がその分、速くなったわけである。

これも簡単な実験で確認できる。あなたが二・五倍速程度まで聴き取れるようになると、本を読むスピードが確実に速くなっていることがわかる。もっとも、本書にあるような方法では、二・五倍速を聴き取るのは初めから誰にでもできる。したがって、誰でも速読は可能なのだ。
しかし、この場合の効果は一時的である。それは「ウェルニッケ中枢」が情報の高速流入によって一時的に活性化されたためにすぎない(より正確にいえば、ウェルニッケ中枢とブローカ中枢、そしてその中枢間を結ぶ脳神経細胞が活性化されたため、ということになる)。

脳力が恒常的に高まるのは、この「速聴」を繰り返して行い、「ウェルニッケ中枢」の脳神経細胞同士のつながり(つまりネットワーク)が密になったときだ。この「速聴」の過程で脳幹網様体も刺激され、汎化作用が生じ、全脳が活性化する。
また前頭連合野なども活性化する。それは人により一週間あるいは一カ月かかることもあるが、「速聴」自体、音声内容の高速理解、あるいはまた時間の節約という本来的効果もあるので、これは生涯学習の一つであるといっても差し支えない。

こうして、あなたの大脳の一部である「ウェルニッケ中枢」は、これまでは真空管だったものが、超高密度LSIに置き換えられたことになる。この差は大きい。どのくらい大きいかということを知っていただくために、別の例をあげると、昔の「人力車」と現代の「スポーツカー」ほどの差がある。
こうして「速聴」で耳から大脳へ入力された高速音声は、すぐに「ウェルニッケ中枢」で高速処理され、大脳の関連各個所にフルスピードで伝達される。

「頭がキレる人間」というのは、まさにこのような脳の構造を持った人に対して与えられる言葉なのである。
しかし、「ウェルニッケ中枢」内のネットワークをより強化すれば、「頭がキレる人間」など、錆びついた包丁にしか見えないだろう。これは決してオーバーな表現ではない。
パソコンを用いているなら、容易に理解できると思うが、パソコンが普及し始めたころは八ビットが主流であり、その処理速度は、イライラするほど遅い。一六ビットになると少しは救われた思いがするが、三二ビットとなると、さすがに速い。
あなたの脳も同じで、処理スピードが速くなると汎化作用が起こり、あなたの脳全体が活性化するわけだ。

二・七~二・八倍速で脳力は十分に開発される。このスピードで聴き取れない、という人はまずいない。
「もっともいきなりではなく、二倍速から二・五倍速で数回耳を慣らせておくと効率がよい。ひとたび耳が慣れれば、あとはどのようなテープでも二・八倍速あるいは三倍速でいきなり聴いても聴き取れる。そして、ぜひ四倍速まで挑戦していただきたい。ただ四倍速は普通の速度から二・五倍速程度ですでに三度ほど聴取済みのテープを用いる。つまり加速してから聴くという方法だ。これでほぼ一〇〇パーセント聴取できる」などと改訂前の旧著には書いたが、現在では、個人差はあるものの、いきなり三・五倍速で聴き取れるほど改良がなされている。

開発当初はリラックスしながら、しかし一生懸命に聴く程度のことは必要だったが、もはや一生懸命ではなく、ただリラックスして聴くだけで十分になったのである。
また、四倍速は「逆聴」という方法を行うと、前頭葉がより高く活性化することがわかった。これは印刷された文章を見ながら同じ文章を聴くという方法である。前頭葉は、思考・判断・言葉を発するなどの働きをする部分で、人間らしさの中枢と考えられていることは、先に述べた。聴覚と視覚の同時刺激が、この前頭葉の活性化には有効なのだ。

「速聴」の効果についての理論的裏付けは、米国ニューヨーク州のシラキュース大学のほか、多くの大学で実験がなされ、論文もさまざまある。これらは本書の巻末に列記しておいた。
本書が、経営者、ビジネスパースン、セールスパースン、教職者や小・中・高校生を抱えている人たち、また学生自身にとって、さらには資格試験を取ろうとしている人たちにとって、福音となれば(なるはずだが)、筆者としてこれ以上の喜びはない。

二〇〇五年四月
株式会社エス・エス・アイ 社主
田中孝顕